【医療界の先輩インタビュー】
村垣善浩教授編①

【医療界の先輩インタビュー】 <br>村垣善浩教授編①

100人以上のエンジニアが開発に携わったスマート治療室「SCOT」とは

さまざまな業界でIoTやAIといった技術導入が進むなか、医療業界では2016年に革新的な「スマート治療室」が発表され、大きな話題となりました。

こちらがそのスマート治療室のプロトタイプ。SF映画のセットを思わせる未来的な雰囲気に誰もが目を奪われます。

 

▲「TWIns(ツインズ)」(※)内にある「Hyper SCOT」のプロトタイプ
※TWIns:東京女子医科大学と早稲田大学による医工融合研究教育拠点である「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」

もちろんすごいのは見た目だけではありません。手術台や内視鏡・麻酔器といった治療室内の各機器がネットワークで繋がれており、術中のデータを最適な状態で表示・共有し、術者の意思決定をサポートしてくれるのです。

 

このスマート治療室SCOT (Smart Cyber Operating Theater)(スコット)を開発したのは、東京女子医科大学と日本医療研究開発機構(AMED)を中心として立ち上げられたプロジェクトチーム。大学や医療機器メーカーから多くの開発者が参加し、長い年月を経てようやく2016年の3月、広島大学病院にBasic SCOTが導入されるに至りました。

 

今回はこのプロジェクトの代表研究者である村垣善浩教授にお話を伺い、全3回にわたって医師の視点から見た医療機器開発者の仕事に迫ります。

 

まず第一回目は、SCOTの開発におけるエピソードを中心にお聞きします。

 

【今回お話を聞いた人】

 

村垣善浩

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野/ 脳神経外科(兼任)教授 【※肩書は取材時】

<Q1>まずSCOTとは一体どのようなものなのでしょうか。

▲村垣教授。SCOTの開発指揮を取り執りながら時に多くの手術を担当し、最前線で活躍されています。

村垣教授「これまでの手術室は、手技や手術を行う“単なるスペース”として考えられてきました。病院にはとても多くの機器があり、医師は手術のたびに自分の好きな機器を手術室に持ち込んで手術を行ってきたんです。一方でSCOTは、手術室をただのハコと捉えるのではなく、部屋自体がひとつの医療機器として動くことをコンセプトに考案しました。

 

例えば「車」は、移動するという一つの目的のためにエンジン、ハンドル、タイヤなどを決めますよね。さまざまなパーツを組み合わせてパッケージしたものがひとつの機械として動く……手術室もそうあるべきだと。

 

選んだ機器は手術室に据置きネットワークで繋ぐことができます。これにより全てすべて機器が同期し、時間や空間の情報が紐づいたデータとして、医師の判断や意思決定をサポートしてくれます。

 

<Q2>SCOTの開発には多くの大学や企業が参加したと思います。それぞれの役割を教えてください。

村垣教授「このプロジェクトには日本医療研究開発機構(AMED)と東京女子医科大学を中心に、広島大学・信州大学を含めた3つの大学と、20以上の医療機器メーカーが関わっています。各医療機器メーカーがもつ専門分野の技術や強みを活かし、医療機器メーカーや東京女子医科大学に所属する約110人のエンジニアが開発。そして、完成したものを3つの大学に導入して、評価を行いました。広島大学では既に数名ほどの臨床手術を行っていて、信州大学でも2018年の7月に初めての手術に成功しています。様々な困難はありましたが、SCOTは医師と各医療機器メーカーが一体となって乗り越え、進んできたプロジェクトなんです。」

 

▲「Hyper SCOT」プロトタイプの室内にはSCOTの開発に関わったメーカーの名前がズラリと並んでいました。医療機器メーカーだけでなく、音響機器メーカーなど、違った分野からもさまざまな技術が集結しました。

<Q3>SCOTの開発で印象的だったエピソードを教えてください。

村垣教授「やはり、Hyper SCOTのプロトタイプを見たときは感動しました。自分たちが考えてきたことが形になって、そこで初めて客観的な視点に立つことができたのかもしれません。多分みなさんが初めて見たときと同じように素直に驚きました。それに、実際に初めて臨床で使っている現場に立ち会った時もとき感慨深かったです。私が思い描いていたように、すべての機器が連動して、情報が一目でわかるという……医療界の未来を覗き見しているようでした。これも各医療機器メーカーで働く方の惜しみない協力があってこそできたことだと思います。」

 

▲「Hyper SCOT」に導入された外科医の手をサポートするロボット「iArmS(アイアームス)」。DENSOと信州大学、東京女子医科大学講師の岡本先生により、SCOTのために開発されました。

<Q4> SCOTが実際の医療現場に導入されることで、どのようなメリットが考えられるのでしょうか。

「一番のメリットは手術をしている医師が“意思決定を支援してもらえる”ということ。例えば、腫瘍(しゅよう)をもう少し取り除けるのか、それとも他の機能を傷つける危険性があるのでここまでにするのかといった、今までは専門家でないとなかなか判断が難しかったことでも、複合的に収集・解析されたデータやAIを利用すると、選択肢やリスクが算出され、人に依存した判断のブレが少なくなります。つまり、経験の浅い医師でも、経験の長い医師に近い判断ができるようになることが期待できるのです。

 

 

村垣教授の言葉から、医師と医療機器メーカーが協力して作り上げている医療界のワクワクするような未来をイメージできました。

 

次回は、医師という視点から見た医療機器産業との関わり方やこれからについて、お話を聞いていきます。

お楽しみに!

 

 

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