こんにちは、医機なび事務局です。
就職活動の際、業界・企業研究を進めていくと気になるのが企業の業績。
「医療機器業界の企業の業績ってどうなっているんだろう…」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
昨年に引き続き、医療機器業界の業績について、企業の決算短信をもとに集計したMEジャーナル編集長 半田良太さんに教えてもらいました。
<参考>前回の内容はこちら
手術や処置などの治療に用いる医療機器は進歩しております。
これまで、胸や腹を大きく切開する外科手術でしか対応できなかった症例が、技術革新によって、血管からアプローチするカテーテルによる手技や、手術支援ロボットを使った精密な医療に置き換わりつつあります。
診断技術も同様です。
高画質化などによって病変が見つけやすくなっていることはもちろん、近年はAI(人工知能)なども登場。
病気の早期発見や見落とし防止などにもつながると、大きな期待を集めています。
さらに患者さんの数も増加傾向を示しており、高齢化が進む日本を筆頭に、経済発展を続けている新興国など、市場は著しく成長を続けています。
技術革新と市場拡大を車の両輪として、医療機器業界を取り巻く経営環境は良好といえ、それを背景に業績も堅調に推移しています。
今回のコラムでは、「医機なび」をみて、就職活動を進めている学生の皆さんに、国内の医療機器業界の業績トレンドを、全産業、製造業などと比較しながら紹介していきます。
医療機器業界は24年度も「増収増益」 全産業平均上回る成長を達成
医療機器の電子媒体「MEジャーナル」が、国内で株式を上場し、医療機器事業を手掛けるメーカー45社の2024年度業績を集計したところ、医療機器業界の業績は、堅調に推移していることが分かりました。
売上高は前年度比6.8%増、営業利益も8.5%増となり、増収増益を達成しました。
一方、株式を上場する全産業、製造業はどのような状況だったのでしょうか。
「日本取引所グループ」の「決算短信集計結果」によると、集計した全3513社の24年度業績は、売上高4.64%増、営業利益6.63%増。
製造業1390社を抽出すると、売上高3.77%増、営業利益5.42%増となり、医療機器業界の堅調な業績推移が確認できました。
過去5年間の営業利益率は全て2桁台 際立つ「利益率の高さ」と「安定性」
さらに特筆するのは、医療機器業界の利益率の高さです。
営業利益率は11.4%と2桁台を維持し、前年度から1.4ポイント上昇していることも確認されました。
ここ5年間の営業利益率の推移は、医療機器業界では10~12%台という、高い営業利益率を継続しています。
一方、株式を上場する全産業、製造業の24年度の営業利益率は、いずれも7%台。ここ5年間でみても、4~8%台で推移しています。
とくにこの5年間は、まさにコロナ禍で世界経済が翻弄された時期。
医療機器業界も、コロナ禍で物流がストップし、原材料高などにも見舞われましたが、比較的景気の状況に左右されず、安定的に利益を稼ぎ出せるという特性が、決算集計からも再確認される形となりました。
医療機器業界の営業利益率
| 医療機器メーカー | (全産業) | (製造業) | |
| 2020年度 | 12.20% | 4.99% | 5.98% |
| 2021年度 | 12.90% | 6.77% | 8.16% |
| 2022年度 | 10.60% | 6.29% | 7.15% |
| 2023年度 | 10.00% | 6.93% | 7.50% |
| 2024年度 | 11.40% | 7.08% | 7.64% |
| 2025年度予測 | 11.70% | – | – |
注1)「医療機器業界」の数値はMEジャーナル調査で、集計対象は例年45社前後
注2)「製造業」「全産業」は、日本取引所グループの「決算短信集計結果」から引用
注3)24年度調査の集計対象は「医療機器」45社、「全産業」3513社、「製造業」1390社
次期業績は堅調予想も「トランプ関税」の影響不透明
医療機器業界の次期業績予想も確認します。
業績予想を開示して比較可能な36社では、売上高3.4%増、営業利益8.8%増となり、営業利益率も0.3ポイント増の11.7%と、堅調な見通しを示しています。
ただ各社の決算短信をみると、総じて為替が「円高基調」で推移するとしたほか、医療機器にも関税をかける米トランプ政権の動向をすべて織り込めていないなど、追い風が吹いているばかりとは言えません。
とはいえ、こうした不透明な要素がありながらも、他の業界に比べた安定感が際立った業績予想を示していることも、間違いない事実です。
医療機器販売業 営業利益率は一般の卸売業並み
今回のコラムでは、医療機器を医療機関に配送する「医療機器販売業」の業績にも少し触れてみます。
国内に株式を上場する医療機器販売業8社(うち2社は親会社の有価証券報告書と決算短信から抽出)の2024年度業績をみると、8社合計の業績は売上高8.8%増、営業利益4.9%増と、増収増益を確保しました。
営業利益率も2.3%と、前年度から横ばいでした。
「日本取引所グループ」の「決算短信集計結果」から卸売業のデータを抽出すると、売上高は3.88%増、営業利益は4.13%増、営業利益率は横ばいの2.43%でした。
医療機器販売業の業績は、概ね卸売業の平均水準にあることがわかりました。
それでは公的医療保険という同じ環境で活躍している、医療用医薬品の流通業とも比較してみます。
業界団体の日本医薬品卸売業連合会がまとめた「医薬品卸売業の経営概況(令和7年版)」によると、会員企業の2025年の営業利益率は1.11%となりました。
医薬品卸売業の過去5年間の営業利益率は0.35~1.11%で、利益率が高いとは言えない状況にあります。
医薬品卸と比べて多様な収益源
医薬品卸は、国が定める薬価と販売価格の差額を、すこしでも確保したい医療機関と厳しい価格交渉を強いられるため、経営環境は極めて厳しい状況に置かれています。
一方、医療機器販売業は、製品配送に加えて、製品の保守・メンテナンス、多種多様な医療機器の使い方をサポートするため、手術室に立ち会うといった、一概に販売業とは言えないような役割も果たしています。
結果として、同じ医療保険制度で活躍する医薬品卸に比べ、利益率の高さにつながっていると分析することもできそうです。
まとめ
いかがでしたか?
ヘルスケア・医療機器業界の特徴として「安定的に成長し続けている」、「景気に左右されにくい」ということを聞かれたことがあるかもしれませんが、今回の数字を見るとより実感できるのではないでしょうか。
ヘルスケア・医療機器業界は、今後も成長することが予測されております。
今回の内容を参考に、今後も業界・企業研究を深めてみてはいかがでしょうか?
