【医療機器体験談】
徐脈の患者体験談

【医療機器体験談】<br>徐脈の患者体験談

※上記写真はイメージです。

徐脈じょみゃく】カテーテルで装着できる超小型ペースメーカー

泳に打ち込んでいた私は、毎日朝夕、練習で2千メートルを泳ぎ、週末はマスターズ大会に出場。年に5~6回は沖縄に行って、ダイビングとシュノーケリングを楽しんでいました。体調に不安はまったく感じていませんでした。

 

ところが、数年前に受けた健康診断で、高血圧と徐脈を指摘されたのです。めまいや動悸など、自覚症状を感じたことがなかったので驚きましたが、かかりつけ医では、激しい有酸素運動を長期間行っている人によくみられる心臓の肥大、「スポーツ心臓」と言われ、また、スポーツ心臓になると、脈泊数が少なくなる徐脈もよく起きるとのことでしたので、この時は特に病気だとは思いませんでした。

 

子どもたちの言葉で手術を決断

毎年年末には、50メートルを1分以内で108回泳ぐ「除夜の鐘」イベントに参加しています。ところが、スポーツ心臓と徐脈と言われたその年は、完泳はしたものの、年が明けても疲れが残りました。遠泳とも言えないような5400メートルの距離なのに、今まで感じたことがない疲労感で、そこで初めて体の不調を疑いました。

 

改めてかかりつけ医に相談したところ、24時間ホルター心電図検査を行うことになりました。これは、小型の心電図計を装着して1日通常通り生活することで、日常生活のなかで心臓の動きに異常が起きていないかを検査するものです。その結果、不整脈も起きていることが分かり、精密検査を勧められて、以前受けた胆管手術の主治医の先生が当時勤務されていた杏林大学医学部付属病院を受診、循環器内科で精密検査 を受け、不整脈の原因が心房細動であること、そしてやはり徐脈が確認されました。循環器内科の主治医の三輪陽介先生とは何度も面談の機会を設けていただき、外来の診察時にも丁寧に詳しく説明をしてくださったので、病気のことはストレートに受け止めました。激しい運動や長時間潜ることは避けた方がよいこと、また徐脈で失神の可能性を考えると、競泳やダイビング旅行だけではなく、車の運転も制限せざるを得ませんでした。

 

杏林大学病院で、太ももの血管からカテーテルを心臓まで入れて不整脈を治療するアブレーション治療を2回受けたところ、心房細動は治まったと聞いてほっとしていたのですが、その後の経過観察で徐脈が残っていることが判明。再度受けた24時間ホルター心電図検査では、寝入ったときと明け方に10秒前後の心停止が見つかったのです。先生からは、心臓ペースメーカーの装着を勧められました。

 

しかし、やせ型の私がペースメーカーを装着したら、水着になったときに植え込んだところの盛り上がりや傷口が目立ってしまうのではないかと不安でした。物を背負うのも制限があり、リュックサックもダイビングタンクも背負えなくなる可能性があります。絶望的な思いでした。3人の子どもたち、4人の孫にも恵まれ、これからの人生に思い残すことはなく、ペースメーカーを延命手段と考えていた私は、手術を決断するまで時間がかかりました。それまで、寝ているときにしか心停止が起きなかったため、自覚症状がなく、10秒間も心臓が止まってしまうことがどれだけ重大なことなのか、分かっていなかったのです。

 

そんな私に杏林大学病院の佐藤俊明先生が、「今はカプセルの風邪薬ぐらいの大きさのペースメーカーもあるんですよ」と教えてくれました。ちょうどそのころ使われ始めた、カテーテルで心臓に植え込むリードレスペースメーカーというもので、当時はまだ一部の病院でしかそのペースメーカーを使った手術を行っていなかったそうですが、杏林大学病院ではその手術を受けられるとのこと。これなら肩を最大限に使うバタフライなども泳げるかもしれません。ダイビングタンクも背負えそうです。なんてラッキーなんだろうと思いました。

 

息子には「ペースメーカーを治療の一環と考えよう。病気で薬を服用するのと同じ」、娘には「新しい医療を受けることで、同じ病の人たちに少しでも役に立てれば」と言われ、子どもたちが考え、出してくれた結論が私の決断となりました。

日常を取り戻すことができた

入院したのは手術の前日です。その日、診療科長の(そえ)島京子(じまきょうこ)教授から手術の詳しい説明をしていただき、お人柄のよさにとても安心しました。先生は病室に実物のリードレスペースメーカーを持ってきてくださったのですが、聞いていたとはいえ、あまりの小ささに主人と驚きました。その夜、冨樫(とがし)郁子(いくこ)先生が私の不安を一つひとつ丁寧に聞いてくださり、さらに夜中には、看護師さんや当直の先生が何度もベッドサイドに様子を確認しにいらしてくださいました。患者として最高の安心感をいただいた状態で、手術に臨めたと思います。

 

手術は、以前受けたアブレーション治療と同じように、太ももからカテーテルを入れる方法だったので、胸部を切開する必要がなく、手術後もその日のうちに歩くことができました。退院時に先生から、電波や磁力を発するIH調理器や車のスマートキー、店舗の出入り口によくある盗難防止ゲートには近づきすぎないように気をつけるようにと言われました。普段は何か機械が胸に入っている感覚はなく、装着していることを忘れて生活しています。

 

さすがに競泳は引退しましたが、クロール、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎのどの種目も泳ぐのに支障はありません。毎日千メートルくらいをのんびり泳ぎ、フォームレッスン、日本泳法、フィンスイミングなども楽しんでいます。陸の趣味にも出会えました。週2日トレーナーについて筋トレを、週1回ヨガを、そして時間があればお城をめぐる旅をしています。来年は、孫娘と受験が終わったら一緒に沖縄へシュノーケリングやダイビングをしに行こうと約束しています。私の日常を取り戻してくれたリードレスペースメーカーに、本当に「出会えてよかった!」です。

 

【担当医からのひとこと】 ペースメーカー治療の選択肢を広げる

S・Kさんは、発作性の徐脈と診断されたシニアスイマーです。従来型の経静脈ペースメーカー治療を受けることを非常に悩まれていました。植え込み側上腕の旋回を繰り返すことにより、経静脈リードが断線する可能性がありました。ご本人はペースメーカーポケットを美容上気にされており、またショルダーベルトがペースメーカーポケット上の皮膚を傷つけるため、スキューバダイビングのタンクなどを背負うことが禁止されることを特に気にされていました。これらの問題を避けるため、今回リードレスペースメーカーを選択されました。これは、容量0・8ミリリットル、重さ2・0グラム、先端に4つの羽が付属するカプセル型のペースメーカーです。大腿静脈から専用のカテーテルを挿入し、心臓の中に固定します。心臓の拍動を検知し、脈拍が遅くなると心筋を刺激します。経静脈リード不要で超小型のため、リードやペースメーカーポケットに関連する問題は、構造上起こり得ません。将来電池交換が必要となったときには、古いペースメーカーは残したまま、新しいペースメーカーを追加して植え込むことも可能です。S・Kさんがさらにご高齢となり、激しいスポーツを継続されなくなったら、従来型のペースメーカーへの変更も考慮しています。

 

一般にリードレスペースメーカーの植え込みは、徐脈に伴う症状があり、心室のみをペーシングする、比較的高齢の患者さんが選ばれます。一方、若い方であっても、従来型と比較し利点があれば、将来経静脈ペースメーカーに変更することを前提とし、まずは低侵襲なリードレスペースメーカー植え込みも考慮に値します。ペースメーカー治療の選択肢を広げる画期的なシステムであり、今後さらに発展することが望まれます。

 

リードレスペースメーカー

心臓のリズムが遅くなる病気にはペースメーカーを用いた治療法があり、一般的に普及している。従来のペースメーカーは、リードと呼ばれる導線を鎖骨下の静脈から心臓に挿入し、ペースメーカー本体を胸の皮膚の下に植え込むものが主流であった。しかし近年、リードが不要で心臓の中に直接植え込むリードレスペースメーカーが登場した。
 このリードレスペースメーカーは、仕事や趣味、余暇の過ごし方など、病気になる前とほぼ同じ生活ができることを企図してデザインされている。

 

 

 

 

 

 

「医療機器体験談」は一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会出版のエッセー集『出会えてよかった』第1集~第3集より引用しています。

URL: https://www.amdd.jp/technology/essay/

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