【医療機器体験談】
胸部大動脈瘤の患者体験談

【医療機器体験談】<br>胸部大動脈瘤の患者体験談

※上記写真はイメージです。

胸部きょうぶ大動脈瘤だいどうみゃくりゅうこの年齢でも受けられた血管内ステントグラフト治療

自分の胸に大動脈瘤ができていると分かったきっかけは、肺炎での入院でした。

 

それまで痛みや苦しみなど、まったく自覚症状はありませんでした。2018年10月、かかりつけの在宅診療の先生の診察で、「肺に影もあるし、熱も少しある。肺炎気味なので、年齢を考えると入院して処置した方がいいでしょう」と入院を勧められました。

 

東京都済生会中央病院に入院しまして、肺炎は10日ほどで治りましたが、退院予定の2日前に退院前検査を受けたところ、病院から精密検査をしたいと言われ、CT検査をしました。

 

実は2017年にも軽い肺炎になったことがあり、同じ病院でCT検査をしていました。そのときの結果と今回のものと比較したところ、体の中で一番太い血管である胸の中の大動脈が今回大きく膨らんでいて、いつ破れるか分からない、とても危険な状態だということが分かったのです。そして言われてみると、1カ月ほど前から背中がたまに痛かったことも思い出しました。

 

すぐに手術を決断

私に命の危険があることは、精密検査のあとすぐに、まず私の娘と、娘の子ども(私の孫)に知らされたそうです。娘はとても心配したそうですが、主治医の藤村直樹先生が、胸を大きく切るような手術ではなく、太ももを少しだけ切って、そこからステントグラフトを心臓近くまで届ける、カテーテル手術というものを提案してくださったのです。

 

「できている動脈瘤は、場所も大きさもこの手術に適しています。血管の状態も、この年齢にしては良好なので、ステントグラフトを入れるのに支障は少ないでしょう」とおっしゃったそうです。

 

全身麻酔なら手術はやらない方がいいかなと考えていた娘や孫も、局所麻酔で、足の付け根を5センチほど切るだけと聞いて安心したようで、「手術をしていただこう」と思ったそうです。私には娘たちへの説明があった翌日、病室で藤村先生から説明がありました。

 

その説明のとき、先生はカテーテルの見本を使って、手術の方法を丁寧に説明してくださいました。私は運命を感じまして、もうこの先生を信用してやっていただこうと、すぐに決意しました。そのとき私は106歳です。私は覚悟を決めましたが、先生にとっても「覚悟の上の手術」だったと、あとからお聞きしました。

 

その後、翌週にはもう手術することが決まりました。先生が前もって予定を入れてくださっていたみたいです。手術自体は1時間半ほどで無事に終わりました。退院は、手術から2週間後でした。肺炎、そして大動脈瘤の手術で、1カ月ほど入院していたことになります。

 

自然体で生活を楽しむ

50年ほど前に胆石の手術を受けたことがあり、20年ほど前には心臓のペースメーカーを入れましたが、そのほかは、過去、大病はほとんどありません。

 

今回の動脈瘤も、言われてみるまで、自覚症状がなかったので、肺炎の退院前検査をしていただかなかったら見つかっていませんでした。自分の身体がこういうことになっていたとは知らなかったので、見つかって、手術してよかったと思います。今は娘と二人暮らしですが、娘も自分がいないときに私が突然倒れたら、という不安がなくなったようです。

 

手術後の体調は以前とあまり変わりません。背中の痛みはなくなりました。足はちょっとふらつきますが、前から杖はついていました。実は退院して10日後に、横浜まで一泊旅行をしました。藤村先生にお聞きしたら、「いいですよ」とおっしゃっていただき、成人しているひ孫たち2人も一緒に、家族で楽しんできました。

 

今は3カ月に1度、検診に行っています。X線検査やCT検査をして、動脈瘤のしぼみ具合や血管に入れたステントグラフトの様子を確認しています。今までにない新しい技術ということでしたが、私も娘も先生を信頼していました。本当に尊敬できる先生で、なんでもてきぱきとやってくださいました。

 

ここ数年は、週に2回、在宅ケアの人に来ていただいて、タブレットで質問に答える脳トレーニングやマッサージなどをしています。入院前は、車いすをレンタルしてタクシーで、近くにある六本木の東京ミッドタウンのお庭を見に行ったり、ランチをしたりしていました。今、出かけることは少なくなりましたが、在宅ケアの人に来ていただくのは前と同じペースで、生活は入院前とほとんど変わりません。家では、美術館や世界遺産などのテレビ番組を、居間のソファに座ってのんびり見ています。

 

お天気のよい日はベランダを歩き、運動不足を解消しています。

 

お酒はもともと飲みませんが、甘いものは大好きです。あとマグロや穴子のお寿司が好きです。先生から食事制限は特にされていませんので、プリンや水羊羹ようかんなど甘いものを、毎日楽しんでいます。

 

「健康のために何かしていることはありますか」と、よく聞かれるのですが、特別なことは何もしていないです。サプリメントも飲んでいません。毎日、夜は10時に寝て、朝は7時半頃に起きます。

 

これからも自然体でやっていきたいと思っています。

 

【担当医からのひとこと】 手術が困難な方への新しい治療法

最初に内科の先生から、106歳の女性に6センチの胸部大動脈瘤が見つかったと相談を受けたときは、超高齢者なので、経過観察で十分と考えておりました。実際に過去の海外からの報告でも、90歳以上の報告はほとんどありません。しかし高橋道子さんは、106歳でしたが、見た目もかわいらしいおばあちゃんで、身の回りのことはほとんど自分でされており、認知症もなく、生活の質が十分に保たれておりました。

 

また大動脈瘤も、のう状で形が悪い上に、1年間で1センチ大きくなっており、1カ月ほど前からは、たまに背部痛もある状況で、いわゆる切迫破裂で治療が必要な状態でした。幸い動脈瘤は、下行かこう胸部大動脈にあり、鼠径そけい部を局所麻酔し、小さく切開するだけで治療ができるステントグラフトでの治療に適していました。院内で合同カンファレンスを行い、慎重に手術適応・方針を検討した上で、高橋さん、ご家族に説明を行い、手術をすることとなりました。

 

この治療は誰にでも適するわけではなく、部位もそうですし、高齢女性は血管が細いため、ステントグラフトが通過しないこともあり、今回は現在承認されている胸部用ステントグラフトとしては最も径が細い製品を使用しました。また治療が終わっても、動脈瘤は残っているので、将来的に動脈瘤が大きくならないか、定期的な通院・画像検査が必要です。そのため、治療が適するかどうかは、患者さんごとに検討する必要があります。高橋さんは、106歳と超高齢者でしたが、すべてが適合し、幸い手術経過もよく、退院できたときは、主治医としてほっと安心することができました。

 

胸部大動脈の血管内治療(ステントグラフト治療)

イラスト:ステントグラフト イメージ

従来の開胸手術は胸部を大きく切開するが、血管内治療は鼠径部(お腹側の脚の付け根付近)を小さく切開するのみのため、痛みが少なく、回復も早い。グラフト(人工血管)にステント(金属製の細いリング状のもの)を縫い付けたステントグラフトを収納した外筒シース(カテーテル)を、小さく切開した鼠径部から挿入し、大腿動脈から大動脈まで押し進める。大動脈瘤がある位置で外筒シースからステントグラフトを出し、大動脈内に留置する。ステントグラフトは大動脈瘤への血流を遮断し、血液の新しい流路となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「医療機器体験談」は一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会出版のエッセー集『出会えてよかった』第1集~第3集より引用しています。

URL: https://www.amdd.jp/technology/essay/

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