【医療機器体験談】
在宅医療の患者体験談

【医療機器体験談】<br>在宅医療の患者体験談

※上記写真はイメージです。

検査 けんさ 超音波検査が訪問診療で受けられた

(この原稿は平良さんのご家族の方に書いていただきました。)
義母は、15年ほど前から認知症の症状が出始めて、少しずつ進行していきました。

 

今では家族や親戚の顔もすっかり忘れてしまっています。
7年ほど前から、義母はデイサービスを利用していますが、以前は、そこに来ているほかの利用者さんやスタッフの皆さんたちともおしゃべりをして、すごく楽しそうでした。いつも笑顔にあふれていたのです。それが、だんだんと認知症特有のおぼろげな表情が目立つようになりました。

 

そんなある日、「おかしいな」と気づいた最初のきっかけは、食事のときにスプーンをまったく持ってくれなくなったことでした。以前、右肩を脱臼したことがあるので、てっきりそれが原因で持ってくれなくなったのかなと思っていました。

 

訪問診療時に検査してすぐに診断

義母は、ドクターゴン診療所の泰川 やすかわ恵吾 けいご先生が自宅を訪問して診てくださっています。その訪問診療時に義母の右手の様子を見た泰川先生が、義母の血管を、そのまま自宅で検査するとおっしゃいました。血管の検査なんて、どんなことをするのだろうと思ったのですが、先生は、二つ折りの携帯電話のような小型の超音波診断装置を取り出して、装置からコードで延びている計測器の片方を、義母の首筋に当てました。

 

私もその様子を見ていましたが、小さいスマートフォンくらいの画面なのに、想像以上にはっきり血管が見えました。検査はそれだけ。あまりにも早くて簡単で、びっくりしました。 診察結果は、脳梗塞の可能性があるとのこと。「今後しばらくの間は予測がつかない状況も考えられるので、経過観察が必要です」と先生に言われ、義母も年が年なだけに、私は「経過観察といっても、これからどうしたらいいのだろう」と、驚きと困惑で頭がいっぱいになりました。

 

当時、義母は認知症の症状も進行していて、これ以上の検査は難しい状況でした。
認知症の患者にとって、通院してあれこれ検査を受けることはつらく、負担がとても大きくなります。そして入院して家族との交流が減ると義母の感情の起伏も激しくなる可能性があるので、それは避けたいと思っていました。泰川先生もその点をよく理解してくださっていて、治療としては、血液をさらさらにする薬が処方され、これ以上の検査はせず、先生が訪問診療で経過を診てくださることになりました。

 

今まで通りの在宅介護の日々

脳梗塞の可能性があるとの診断を受けてからも、毎日デイサービスには通っています。私たち家族の介護の負担も、デイサービスと自宅との行き来が基本で、ほぼ今まで通りです。
超音波診断装置については、持ち運べるくらいの小さい機器でもはっきりとした映像が見られるのは、画期的だと思いました。足が不自由な患者さんや車いす生活の方々にとっては、わざわざ検査のために病院へ行くこともなく、訪問診療で診てもらえるのはとても助かると思います。私たちにとっても、病院での検査・治療を回避できたことは、とてもありがたかったです。
義母の右手が不自由になって、一番変わったのは、食事を自分で取れないことです。

 

利き腕の右手が使えないため、食事中は私がずっと介助しています。義母とじっくりと向き合い、話しかけたりすることは、自分にとっても安らぎを感じる時間となっています。

 

義母の落ち着いた表情や、ときどき見せるにこっとした笑顔に癒やされます。介護している私たち家族がそれほど負担に感じずに過ごせています。本人の気持ちを私が代弁していいのか分かりませんが、義母はおそらく今、心穏やかに過ごせているのではないかと思いますし、そう思いたいです。

 

この超音波診断装置のように、持ち運びが容易な検査機器や治療機器を使って、在宅での検査や診療が可能になると、歩行困難で認知症の義母を持つ私たち家族にとって、大変助かります。また、災害現場などでも、とても役に立つのではないでしょうか。こうした医療機器の発展は、本当に画期的だと思います。

 

泰川先生や看護師さん、デイサービスのスタッフさんに、いつも私たちは支えられています。皆さんに感謝します。

 

【担当医からのひとこと】 在宅医療の診断レベルを上げる

動脈硬化が進んでいる患者さんは内頚 ないけい動脈 どうみゃく狭窄 きょうさくによる脳虚血が起こりやすく、認知症が進行して通院が難しい場合、検査を行うことはかなり困難です。 トミさんは、前医からアルツハイマー型認知症の診断で紹介され、当院の在宅医療を長年受けていました。認知症が進行していて、自分から何かを訴えることができないこともあって、普段は血圧コントロールや肺炎などの合併症予防に主眼を置いてきました。言葉でのコミュニケーションは取れませんから、表情の良しあしや全身状態を観察し、経過はおおむね安定していました。

 

ある日、いつもより元気がなく、それまでみられなかった右手のマヒが現れました。症状からは脳梗塞や脳出血が考えられます。通常でしたら救急搬送してMRIやCTを撮影して診断し、治療を検討するケースです。しかし、トミさんの場合、MRIやCT撮影中にじっとしていることが困難で、病気が判明したとしても治療はできないため、在宅で可能な検査治療を行うことになりました。ポケットサイズの超音波診断装置で観察すると、内頚動脈にはっきりとした狭窄が認められ、このため脳への血流が不足して症状が現れていると考えられました。そこで、本人への負担が小さく副作用も少ない抗凝固剤を選んで内服していただき、リハビリを進めました。マヒは次第に改善し、現在はおおむね脳虚血を発症する前の状態に戻っています。

 

ポケットサイズの超音波診断装置で、在宅医の診断レベルは格段に上がります。これからの在宅医療に必携のデバイスと言えるでしょう。

 

ポケットサイズのエコー

写真:ポケットサイズのエコー

体の内部を非侵襲的かつリアルタイムで観察できるエコー装置は、幅広い診療科の診断・治療で活躍している。しかし在宅医療や救急・災害現場などの、狭く頻繁に移動する環境では、大きなエコー装置での検査は難しい。そこで近年、ポケットに入るサイズのエコー装置が開発され、院内外を問わずその活躍の場を広げている。小型ながら全身を検査できるプローブを備え、心臓や腹部、表在臓器などを「いつでも・どこでも」検査できる。

 

 

 

 

 

 

「医療機器体験談」は一般社団法人 米国医療機器・IVD工業会出版のエッセー集『出会えてよかった』第1集~第3集より引用しています。

URL: https://www.amdd.jp/technology/essay/

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